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一般講演 P1-049

房総半島におけるシカ密度依存的な下層植生相の変化

*鈴木牧, 宮下直, 蒲谷肇, 浅田正彦, 落合啓二, 丹下健

シカの過密化が森林下層植生に及ぼす影響を予測するためには,シカ密度の変化に伴う植生の衰退過程を定量化しておく必要がある.そこで,シカ密度が地理的グラディエントを描く房総半島において,シカ密度の異なる多数の森林で植生調査を行い,シカ密度と下層植生の種数および被度の関係を一般化線形モデルで記述した.モデル構築時に,シカ密度以外の説明変数として林床の光環境(開空度)・土壌湿度条件(TWI)・森林タイプ(スギ人工林/広葉樹林)を組み込むことにより,これらの条件によるシカの影響の違いも検討した.

シカ密度の増加に伴う植物種数の変化は一山形の曲線を描き,シカ密度が中程度(5〜6頭/km2)の場所で植物種数が最大化していた.この結果は,シカによる中規模撹乱効果を示唆する.下層植物の総被度は,シカ密度の増加とともに単調減少した.ただし,一部の群落では,嗜好性植物の減少に伴い不嗜好性植物の被度が増して,総被度の減少が緩和されていた.以上の傾向はスギ人工林と広葉樹林で共通していた.ただし,スギ人工林はシカ密度が同程度の広葉樹林に比べて下層植生の被度と種数が多い傾向があった.

広葉樹林下の植物種数は開空度によって有意な正の影響を受けており,スギ人工林の下層植生被度は開空度と TWI から有意な正の影響を受けていた.これらの結果から,植物群落に対するシカの影響の大きさは,群落の生産性にも依存することが示唆された.以上の結果より,シカの環境収容力が森林タイプや群落生産性に依存することが実証された.

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