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一般講演 P1-051

森林および草地のエコトーンにおける森林性オサムシの環境選択行動

*山下英恵(東大院,農学生命),桐谷圭治(伊東市),富樫一巳(東大院,農学生命)

境界地は隣接する景観要素間の移行帯と定義され,時空間的にも特異的な環境となる。本研究では,2003年〜2005年の4月〜10月にかけて大室山(静岡県伊東市)の草地と林地の境界地で,地表徘徊性のルイスオサムシ(森林性)の行動を明らかにした。

ルイスオサムシの捕獲数は,林地内,境界地の林地側,境界線,境界地の草地側,草地内部の順に少なくなった。境界線から草地側に10m進むと捕獲数は急激に減少し,10mを超えるとほぼ0になった。林地のルイスオサムシ相対密度に対する草地のそれ(移出率)はy=-0.018+0.213x ,r=0.869の関係が見られ,林地のルイスオサムシは密度に無関係に0.15 の確率で移出すると考えられた。

境界線上で118頭のルイスオサムシを放した。再捕率は境界地の林地側で10.2%,草地側で8.5 %であり,全体では18.6%(22頭)であった。放した地点から再捕獲された地点までの個体の平均距離は,林地側で8.83 m(13頭),草地側で4.83m(9頭)であった。これらのことからルイスオサムシが境界地に達した場合,林地に戻る傾向が強いことが明らかになった。

ルイスオサムシは森林性のスペシャリストである。しかしながら,すべての個体が林地内にとどまるわけではなく,一部の個体は林地から草地に移出していた。一方,標識個体の行動から境界地に達した個体は森林に戻る傾向が強いことが分かった。その結果,林地の高い密度が維持されていると考えられる。

林内の個体数に比例して移出個体数が一定の割合で増加することは,移出による生息域の拡大は林地でのルイス個体数の増加に依存することを示す。このように,個体群密度の増加による移出個体数の増加とそれに伴う個体群としての定着成功率の上昇によって生息域の分布拡大が起こると推定された。

日本生態学会