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一般講演 P1-053

琵琶湖堆積物における安定同位体、リグニン由来フェノール、化石色素の変化:過去100年間の人間活動の影響

兵藤不二夫(地球研),槻木(加)玲美(佐賀大・有明),東順一(京大・農),占部城太郎(東北大・生命),中西正巳(京大・生態セ),和田英太郎(地球フロンティア)

近年の人現活動の増大や気候変動が世界中の湖の生態系に大きな影響を与えていることが知られている。この影響を正確に理解するためには、湖の長期の観測データが必要であるが、それらは湖底堆積物に生物・化学的情報として記録されている。我々は琵琶湖生態系の過去100年間の変化を明らかにするために、堆積した年代が明らかになっている堆積物中の窒素・炭素安定同位体比、リグニン由来フェノール、及び化石色素を測定した。堆積物中の窒素安定同位体比及び藻類色素量は1960年代初めから1980年にかけて、急激に増加し、その後一定の値を示した。これは富栄養化が1960年初めに起こったが、その進行は1980年代に止まったことを示している。このことは陸上植物由来のトレーサーであるリグニン由来フェノール濃度が1960年代初めに減少し、1980年に再びやや上昇していることにも対応していた。しかしながら、リグニンフェノールの組成には顕著な差がなく、琵琶湖流域で過去100年間陸上植物の組成は変化しなかったことが示唆された。堆積物の炭素同位体比は1960年代から増加したが、1980年代から現在にかけて減少していた。この炭素同位体比の減少は陸上植物の流入や藻類生産の年ごとの変化によっては説明できなかった。炭素同位体比は琵琶湖で夏場に優占する緑藻と冬場に優占する珪藻の比を表す化石色素であるルテインとフコサンチンの比と有意な正の相関関係を示した。この結果は1980年代以降の藻類生産速度は年平均では安定していたが、その季節性は過去25年間で変化してきたことを示唆している。

日本生態学会