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一般講演 P1-064

「下流域への栄養塩負荷を最小限にする森林伐採管理方法の探究」

*草加伸吾(琵琶湖博・琵環研セ),金子有子(琵環研セ),徳地直子(京大フィールド科学),籠谷泰行,浜端悦治(滋県立大)

これまで高島市朽木森林公園くつきの森において、10年間にわたって実施してきた対照流域法による伐採実験により、次のことが分かってきた。すなはち伐採流域で硝酸化成が盛んになり、対照とした森林流域に比べ、伐採流域では数年間にわたり晴天時10倍から20倍、降雨時30倍から400倍に渓流水の硝酸濃度が増加する結果が得られている(Kusaka & Hamabata, 2001)。この結果をふまえ、水環境保全的な森林管理方法を探求するため従来法を含む4種類の管理方法を評価する目的で、斜面レベルでの伐採実験を3年半行った。下流への流出が問題となる硝酸態窒素について、伐採実験流域近くの西向き山麓に、A,B,Cの3斜面を選定し、伐採後の森林管理を様々に違えて設定した4種類の小面積伐採区を、その中にそれぞれランダムに配置し、対照区とともに、3回繰り返しとなるようにした。土壌浸透水質を分析した結果、硝酸イオンやアンモニウムイオンや塩素イオン濃度から見て、伐採前には各処理区間の差は小さかった。伐採処理後、対照区に比べ、伐採区の硝酸濃度は半年間のずれをもって、有意に増加し、斜面中部は下部より濃度が低く、伐採実験流域での結果が追認された。

斜面下部非伐採区の濃度は処理区の中で最も低く、硝化の激しく起こる場を発生源とさせず、斜面上、中部からの側方浸透流の影響を緩和していると思われた。斜面下部の森林を残すことは、水環境を保全する上で最も有効な管理法であると思われる。寒冷紗で被覆し温度を下げた処理もある程度効果があったが、施業としての可能な方法が未開発で、今後の検討が必要である。従来法に草本植生を導入した処理は、夏場の流出を秋に遅らせる効果は見られたものの、流出を大きく止めるほどの効果はない結果となった。

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