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一般講演 P1-070
人間活動がもたらす環境の変化がそこに暮らす生物に与える多様な生態影響を総合的に評価するため、数理モデルとコンピューターシミュレーションによる将来予測とともにリスク推定手法を開発することが、生態系の保全を目指した有効な施策を実施する上で急務である。本研究では数理的手法開発を目的として、東京湾に生息するシャコOratosquilla oratoria個体群を事例とし、まずどの生活史段階での成長や生残が個体数を左右するのかを検討する生育段階構造モデル(stage-structured model)の感度解析を行った。
本種は浮遊幼生期を経た後に海底に巣穴をつくりその中で生活する甲殻類で、生息地の環境変化が生存と再生産に大きく関わると考えられる。東京湾底生魚介類群集における優占種であり、主要な漁獲対象種の一種として知られるが、1992年以降漁獲量が激減しており、また漁獲された個体の平均体長が低下している。本モデルでは、着底後の個体を漁獲対象である大型(体長11cm以上)と漁獲対象でないために船上投棄の対象となる小型(11cm未満)の2段階に分け、さらにそれらを成熟率のちがいから前年とそれ以前に生まれた個体とに分けた。小型個体は大型個体より産卵する季節が遅く、生まれた幼生の着底率がより高いことが示唆されている。このため幼生も親の体長クラスによって2段階に分け、計6段階それぞれに成長・生残・再生産等のパラメタ値を文献等より推定した。全個体数の動態は差分方程式によって記述し、個体数および体長組成の変化に対して初回成熟体長の小型化が与える影響を観察し、またどの生活史パラメタの変化が最も寄与しているかを推測する。