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一般講演 P1-077
福島県会津若松市に位置する赤井谷地は中央が盛り上がった真正のレイズド湿原で,1928年に国指定天然記念物となり,保護管理されている。しかし,谷地の周辺は17世紀から始まる開田で水環境は大きく変化し,谷地内の乾燥化が進行している。そのため,谷地内にはアカマツやススキ草原植物が侵入し,本来の湿原植生が変化している。そこで1995年から始まった土地改良事業に関連させ,谷地内の植生を本来の湿原植生に戻すための保全整備事業が開始された。特に谷地隣接部の水田は緩衝地としての働きを有する湿原創出地とし,湿原からの漏水を防ぐために遮水板を2001年秋に設置した。本報では,湿原創出地に出現した水田跡地植生を2002年から追跡した結果を報告する。
調査は谷地に隣接する南側と東側に帯状調査区(390×15m,150×10m)を設置し,畦畔を考慮に入れて96の調査区に細分し,毎年,秋季に植生調査を行った。
遮水版を設置して1年を経過した時点では,水田跡地はイヌコウジュ,ミゾソバ,アキノウナギツカミ,イヌビエなどの短命性の草本が優占する水田雑草群落が形成されたが,部分的にハンノキあるいはヤナギ数種が侵入した。2年目以降,水田跡地はハンノキ優占地(ハンノキ−ミゾソバ群落),ヤナギ優占地(カワヤナギ−イグサ群落),ヨシ優占地(ヨシ−アゼスゲ群落),タデ優占地(アキノウナギツカミ群落)に細分していった。特にハンノキ優占地とヤナギ優占地では植生高が高まるにしたがい,階層は林冠と林床に分化し,出現種数は大きく減少した。一方,ヨシ優占地とタデ優占地では短命性の植物から多年草へ置き換わったが,出現種数に変化はなかった。これらの植生の違いは水田が放棄された時期(ヤナギ種子の侵入),埋土種子群(短命性雑草の出現),周辺植生(ハンノキ種子の侵入),水分環境(湿生・乾生植物の出現)などの相違によると考えられる。