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一般講演 P1-079
里地里山景観の一構成要素である草地環境は、生物多様性の視点から高く評価されている。しかし、その面積は高度成長期以降、燃料革命などによる土地利用形態の変化に伴い、全国的に減少し続けている。これまでにも、さまざまな分野で草地保全に関する研究が行われてきたが、地域スケールの中で草地環境の植物がもつ種多様性の役割をとらえた研究事例は少ない。そこで、本研究では比較的草地環境との結びつきが残されている南九州の里山地域において、その歴史的変遷をたどりながら、管理形態が草地フロラに与える影響を明らかにすることを目的とした。
九州南部宮崎県串間市周辺の海岸付近から山間地にかけて、土地利用の履歴が異なる地域に集落単位で面積500m×500mの調査地区を4地区設置した。そのうち2地区の草地では、少なくとも300年以上前から牧草地維持のため火入れ、刈取りといった管理形態が続いており、管理放棄が進む他2地区の対照地区とした。各地区内の草地環境において、火入れ・刈取り・畦畔などの管理形態区分ごとに植生調査、植物相調査を行い、生育するすべての種の量と分布を明らかにした。また、植物相調査は2005年5月から2006年10月までの期間、4つの調査地区それぞれに15人・日分の時間と労力を掛けて行った。調査結果から、それぞれの種について管理形態区分ごとの出現頻度を集計し、種数や面積、生活型組成、帰化率、希少種などの割合との関係についてパターンを読み取った。火入れなどの管理を放棄した地区の草地環境では、水田周辺の畦畔草地が多くの草本植物の避難地となっており、伝統的な水田耕作が継続されている間は草地環境の種の多様性が維持される可能性が高いことが明らかとなった。