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一般講演 P1-080
屋久島西部を通過する西部林道(鹿児島県道)は1967年に開設された。以来、改良工事が続けられ、1990年頃までに南部は2車線道路に、北部は1車線ながらも道幅が拡げられていた。1993年に中部の狭い1車線区間が世界遺産地域に指定されたが、同年に鹿児島県はその区間を2車線に拡幅する工事計画を発表した。これに対して、日本生態学会などが自然に対する悪影響を懸念し、工事の中止を国や鹿児島県に要望した。地元の上屋久町でも、この工事の是非について町を二分する議論が起こった。しかし、1996年に環境庁がこの工事計画を許可したため、着工は時間の問題となった。ところが、町長の交代を機に、急転直下、この工事計画が凍結されることになった。
こうした議論の最中、この道路に関する様々な調査が行われた。その中で、路上に道端の木々が張り出した状態、いわゆる「緑のトンネル」の分布も調査された。緑のトンネルは、この道路の観光利用者にとってのアメニティー空間と位置づけられる。ここでは道路周辺の樹木の状態の変化を追うことで、工事を凍結したことで保全された緑のトンネルについて検討した。
1993年と2006年に西部林道19.3km区間の道路周辺の状態を4つに分類した(緑のトンネル・道路両側に木あり・片側に木あり・両側に木なし)。そして、各状態が道路幅によってどう変化したか分析した。その結果、道幅が広い北部と南部では緑のトンネルが消滅し、また回復もできていないことが解った。これに対し、道路幅が狭い中部では緑のトンネルの割合が4割から5割へと増加していた。以上から、仮に拡幅工事が行われていれば、この道路では緑のトンネルが相当な期間ほとんど形成できず、利用者に対するアメニティーが低下していたと考えられた。