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一般講演 P1-082
水田生態系の生物多様性に重要な役割を果たしているニホンアマガエルの生息密度を回復させるため、締め固められた畦畔に長さ50 cm、内径25 mmと40 mmの塩ビパイプを代替退避場所として設置した。長さ40 m、幅1 mの畦畔上に、88本の塩ビパイプを地面から垂直に立てたところ、繁殖期(5〜6月)には平均6.8個体、非繁殖期(7〜10月)には平均8.5個体が塩ビパイプを退避場所として利用していることが観察された。また、パイプを設置した畦畔にはパイプ外にも多くの個体が分布しており、繁殖期には平均5.1個体、非繁殖期には平均11.1個体が目視法によって記録された。この分布個体数はパイプを設置していない畦畔よりも圧倒的に多かったことから、代替退避場所の設置は本種の生息場所を修復し、生息密度を回復させる効果があると考えられた。次に、隣接の水田から繁殖後の成体と変態上陸後の幼体がダイズ畑に移動してくることが観察されたので、それらの胃内容分析を行った。その結果、胃内容から多様なダイズ害虫が検出され、ダイズ畑が本種の非繁殖期における採餌場所になっていることが確認された。水稲単一栽培地帯において、水田の隣接地にダイズを作付けすることは、採餌環境を改善するだけでなく、道路などによる生息場所の分断も解消することから、本種の生息場所の大幅な改善につながると考えられる。この他にも、減反圃場の通年湛水ビオトープ化などによって環境要素を多様化させ、それらのモザイク構造を水田地帯内部に再現すれば、土木工学的手法に頼ることなく、水田産カエル類の生息場所の修復が可能と考えられた。
参考文献
平井利明(2006)畦畔の締め固めがカエル類に及ぼす影響:塩ビパイプ製退避場所の設置はニホンアマガエルの生息密度を回復させるか?日本応用動物昆虫学会誌 50 (4): 331-335.