| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 P1-084

ボルネオ島における塩場を中心とした哺乳動物の種多様性と塩場依存性

*松林尚志(東農大・農),Peter Lagan,Noreen Majalap,Joseph Tangah(マレーシア国サバ州森林局),Jum Rafiah Abd. Sukor(マレーシア国サバ州生物局),北山兼弘(京大・生態研セ)

多くのミネラルは、動植物共通の無機栄養素である。しかし、Naは動物にのみ必須で、植物中の含有量は少ないため、植食動物は他の供給源からNaを摂取する必要がある。その供給源の一つに塩場がある。塩場の生理的重要性は以前から認識されていたが、東南アジア熱帯雨林において、その訪問動物種と訪問頻度に関する報告はなかった。我々は、Naに乏しい内陸熱帯雨林に生息する哺乳動物による塩場利用の実態を明らかにし、塩場の保全意義をより強く提示することを目的として、マレーシア・サバ州Deramakot森林保護区において、化学分析による塩場の特定と、自動撮影カメラによる塩場訪問種の同定と訪問頻度を調査した。その結果、調査地で確認された非飛翔性中大型種37種の内29種類(78.4%)、全ての採食タイプ(植食、雑食、肉食)を塩場で確認した。そして、訪問種の上位5種は、全体の77.5%を占めた。これらの結果は、塩場は哺乳動物の種多様性が高いものの、その訪問頻度は種間で大きく偏ることを示していた。さらに、orangutanなどの絶滅危惧種が高い訪問頻度を示したことから、訪問頻度は密度だけでなく訪問種のミネラル要求度も反映していると考えられた。また、塩場では肉食動物も確認された。肉食動物は、採食物からミネラルを摂取できるため、塩場訪問種の捕食を目的として利用していると考えられ、塩場を中心に食物網カスケードが形成されていることが示唆された。以上から、塩場は、内陸熱帯雨林に生息する絶滅危惧種をはじめとする多くの哺乳動物にとって、生理生態的に重要な環境の一つであることが示され、優先的に保全されるべき環境であると結論した。

日本生態学会