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一般講演 P1-085

小笠原産絶滅危惧種ナガバキブシの現状

安部哲人(森林総研)

小笠原諸島は海洋島であるため生物相に占める固有種の割合が高いことで知られているが,その面積の狭さゆえに,生育範囲が限られている固有種が多い.加えて明治時代以降の入植に伴う開発や外来種の影響で個体群が衰退し,絶滅寸前とされている種も数多くある.しかしながら,実際に個体群動態を追跡されている種は少なく,多くの種が現状不明のままである.そのような固有種のひとつが低木のナガバキブシであり,父島と兄島に自生地が知られている.本研究では父島でのナガバキブシの個体群及び繁殖の現況について2004年から3年間調査した結果を報告する.確認されたナガバキブシの個体数は計82個体であり,調査範囲は自生地をほぼ網羅していることから,父島におけるナガバキブシの現存個体数は100個体前後と推測される.調査個体のうち8個体(9.8%)が期間中に死亡し,新規加入となる実生個体は3個体のみであった.近年,ノヤギが自生地に侵入しはじめたことから食害率が年々増加しており,2006年には全シュートの16.4%,2年生以下の若いシュートの34.9%が食害された.多くの個体は頻繁な萌芽更新により株を維持していることから,若いシュートを好むノヤギの食害はナガバキブシの生存率低下に寄与していると思われる.56個体(68.3%)が3年間で1回以上開花が見られたが,このうち雌個体は12個体,結実個体は8個体のみであった.3年間の平均結果率は両性個体で0.0%,雌個体で6.8%であり,他個体花粉の強制受粉を施しても結果率は有意に増加しなかった.以上のことから,ナガバキブシは実生更新がほとんど期待できず,残存個体群もノヤギの食害により衰退しつつあるという危機的な状況が明らかになった.早急なノヤギの排除・根絶と個体群維持のための育苗等の保全対策が必要であると考えられた.

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