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一般講演 P1-086
東アジア地域において初となる倒木投入実験を標津川下流部で行った。本研究は、河幅の大きな河川下流部におけるサクラマスに対する投入倒木の効果およびその原因を明らかにし、倒木を用いた効果的なサケ科魚類生息場改善について議論を加える。
投入倒木は木と根株を連結し河岸とワイヤーで結んだだけの柔軟な構造で長さは約12mである。サクラマスの個体数と全長は潜水による目視で測定した。倒木が投入された倒木区と倒木のない対照区を4つずつ設定し、倒木投入の事前および事後(1ヵ月後、1年後)において体サイズ別(S≦12cm、13cm≦M≦26cm、L≧30cm)の個体数を比較した。その結果、倒木投入前はどのサイズにおいても倒木区と対照区で個体数に差はなかったが、1ヵ月後にはどのサイズでも倒木区で有意に多くなり、1年後もその傾向が継続した。次に、なぜ倒木区で様々な体サイズ(生活段階)のサクラマスが多く生息したのかを検討するため、倒木区で体サイズ別の空間利用を調査した。すると、Lサイズは大きな根株を伴う深場、Mサイズは倒木脇に形成される流れの集中域、Sサイズは密なカバーや下層、Sサイズの中でも特に小さな個体は倒木の背後にできた緩流域を利用していることが分かった。
以上から、倒木投入により様々な体サイズのサクラマスが多くなる原因は、生活段階によって異なる好適な微生息場を倒木が創出するためであると結論される。それゆえ、倒木を用いた生息場改善を行う場合、大きな根株や枝などによる複雑なカバーを伴い、流れの集中域と緩流域を同時に形成する長い倒木構造が効果的であると考えられる。