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一般講演 P1-089
近年全国各地において、大型草食哺乳類による自然植生への深刻なインパクトが顕在化してきた。近畿地方では大台ヶ原の例がよく知られている。暖温帯から亜高山帯に至る垂直分布が見られる大峰山脈でもシカの密度増加が懸念されているが、植生変化についての情報は十分ではない。そこで私たちは、1980年代に調査が行われた前鬼周辺の針広混交林において1haの調査区を新たに設定し現状を明らかにするとともに、防護柵を設け内外の更新動向を比較して更新に及ぼす動物の影響を評価することにした。
胸高直径5cm以上の樹木は55種945個体1030本出現した。個体数ではヒメシャラが251個体と最も多く次いでツガが89個体であった。胸高断面積ではツガ・ヒメシャラ・ミズナラ・ブナの順であった。このうち18種145本に樹皮剥ぎが認められ、被害率は胸高直径30cmまでの小・中径木で高かった。樹種別ではリョウブ・ヒメシャラ・モミなどが高かった。
林床では1983年に森林面積の50%以上で10〜15本/m2以上あったスズタケの稈密度がほぼ皆無となっていた。
2005年9月に7基の防護柵内外に2個ずつ設置した調査区(各2m2)計28個に出現した木本実生・稚樹は726個体で、2006年7月には2533個体の新規加入があった。前者の個体群では高さ4cm未満が67%を占め、実生段階の成長は抑制されていた。また防護柵内外で発生した実生密度に有意差は認められなかったが、2005年個体群の翌年までの消失率は防護柵外で有意に高く(49.0% vs 20.3%)、採食ないし踏圧の影響が示唆された。