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一般講演 P1-095
多摩川のカワラノギクの減少に伴って、保全のために3つの情報管理が必要になっている。
第1に個体群の対立遺伝子の構成についての情報の管理である。これについてはMaki et al. (1996)が酵素多型を用いて検討しており、ひとつの河川の中での対立遺伝子の構成の差異が小さいことを報告している。保全のための緊急アピール(倉本ら2000)では多摩川のなかでの移動を容認しているものの、反対の研究者も存在する。
第2に植栽についての記録である。減少に伴って、善意に基づく植栽がさかんに行われるようになっている。そのなかには花壇のような植栽を河原に行うものもある。人工的なものは一目で植栽と判別できる。しかし、なかには、カワラノギクが生育していてもおかしくない場所にきわめて自然に近い配置でカワラノギクを人工的に生育させる例もある。このような場合には野生の個体群と区別することは困難であり、導入した人からの情報によってはじめて植栽と判明し、調査の多大な労力が水泡に帰すことになる。
第3に調査者についての情報である。カワラノギクの減少に伴って、同一の個体群に複数の調査者が集中するようになってきた。そのため、ある調査者が実験的に形成した個体群で別の調査者が個体群動態の調査を行う事例が起きている。調査者が連絡を取り合って、調査を調整することが求められる。
このように、減少が著しく、多くの市民の関心の的となっているカワラノギクの場合においては、情報の管理を研究に加えて行うことが求められている。情報の管理は生物学的な見識を持って行う必要があるので、今のところ研究者が行うべきであろう。しかし、本来はカワラノギクのような河川敷に分布の限られる植物においては河川管理者が行うべき業務であると考えられる。