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一般講演 P1-096

北海道北部の山地湿原における水質環境

*酒井 絢也(北海道大学 大学院 環境科学院),植村 滋(北海道大学北方フィールド科学センター),矢部和夫(札幌市大 デザイン)

周囲に河川が存在せず、降水によってのみ涵養される山地湿原の多くは水質が極度の貧栄養となり、泥炭の堆積状況の違いによって多様な微地形が形成され易い。しかし、それらの植生や生態系の動的機構についての理解は充分ではない。

本研究は、北海道北部の多雪山地湿原であるクトンベツ湿原(北海道大学雨龍研究林内、雨竜郡幌加内町)において、優占植物と水質環境の関係を明らかにすることを目的としている。約3haの湿原域に93の調査区を設け、それぞれ優占植生、微地形、水位、水質(pH、Eh7、EC、窒素、リンなど)、有機物分解速度を調査した。調査は2006年7月初めから10月末まで行った。水質は8月と10月に表層(1〜10cm)と深層(11〜20cm)の2層で採取・測定した。湿原域は上部から下部に向かってムラサキミズゴケ優占域、イボミズゴケ優占域そしてヌマガヤ優占域へと移り変わる。植物の吸収量が多い8月の表層で、植生タイプ間の水質環境の違いが顕著になった。成長時期の水質環境の違いが優占植物と対応関係を持つことが明らかにされた。また、PCAによる解析によって、窒素環境とECが植生タイプの区分への寄与率が高く、窒素を主要とする養分環境がムラサキミズゴケ、イボミズゴケ、ヌマガヤの順に豊かになる傾向を示した。そして、有機物分解速度の高い場所から低い場所に向かって養分環境が乏しくなる傾向が示された。

以上のことから、クトンベツ湿原における水質環境は、微地形間の有機物分解速度の違いに大きく影響されることが示唆された。微地形と水質環境のバランスにより植生がモザイク状に成り立ち、多雪山地湿原特有の生態系を維持していると考える。

日本生態学会