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一般講演 P1-098
耕作放棄水田の土壌は、耕作当時に生育した植物種群の埋土種子集団を保存する。この埋土種子集団には、絶滅危惧種を含む発芽可能な種子が維持されるため、放棄水田を利用して水田生態系に依存して生育した植物相が復元されてきた。耕作水田とは異質な植生が成立する放棄水田において、土壌中にある水田雑草群落の埋土種子集団は、放棄年数とともに減少すると予想される。本研究では、耕作停止後の年数が異なる放棄水田、および耕作水田において、表層土壌の発芽実験を実施し、水田雑草群落の埋土種子集団が放棄年数によって減少する程度を解明した。
東京都町田市の丘陵地において、耕作水田、放棄25年程度、35年程度の地区を、同一谷底低地内から1地区ずつ選んだ。3地区とも圃場整備は実施されず、地下水位は高かった。各地区では、規模・形状に合わせ1-2m間隔で20cm四方、表層から15cm深までの土壌を30サンプル採取した。各サンプルを湛水区、湿潤区の2水分条件に分け、出現実生法による発芽実験を実施した。各地区において地上植生の植物社会学的調査を実施した。
実験の結果、100種、3.6 × 104の発芽個体が観察された。放棄水田で埋土種子集団にのみ多数出現したアゼナ、タマガヤツリは耕作水田の埋土種子にも多数含まれた。タガラシ、ミズハコベ、ミゾハコベ、ヒデリコは耕作水田、放棄25年、放棄35年の順に個体数、出現頻度が減少した。キカシグサ、ハリイ、コナギはほぼ耕作水田のみに出現が限られた。希少種のヤナギスブタ、アブノメは、個体数が少ないものの、耕作水田の埋土種子集団に存在した。水田耕作停止後25年、35年の放棄水田の水田雑草群落の埋土種子集団は種構成、個体数ともに、耕作当時よりも顕著に減少していると考えられた。