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一般講演 P1-100
林床に生育する絶滅危惧植物にとって,林冠層の欠如は生育環境を大きく変動させる要因となり,個体群の構造・動態にも影響を及ぼすことが考えられる.落葉広葉樹林の林床などに生育する夏緑性多年生草本のタデスミレ(スミレ科)は,これまで本州中部の2ヶ所に自生地が知られているのみの希少植物で,レッドデータブックでも絶滅危惧IA類にリストされている.このタデスミレの自生地において,上層木の伐採による生育環境の変化が,タデスミレの個体群動態におよぼす影響について,個体群のサイズ・空間構造から検討した.
自生地のミズナラ間伐林と無間伐林の林床に,15m×15mの調査区を設置し,調査区内の1m2ごとに全タデスミレの開花状況,サイズ,生育位置を記録し,生育環境(開空度(全天空写真から算出)・土壌水分・草本層植被率・立木)の計測を行った.なお,タデスミレは,塊状の地下茎から,高さ30〜50cmの地上茎を1〜3本伸ばすが,本調査では,個々の地上茎を調査対象とし,同一の地下茎から生じる地上茎群を個体として扱った.調査の結果,タデスミレは,無間伐林で267個体(地上茎:283),間伐林で155個体(地上茎:189)が確認された.地上茎の基底断面積合計を基にサイズ区分(サイズクラス1〜9)を行うと,両調査区とも大型個体が多く,小型個体が少なかったが,間伐林の集団では,小サイズの個体の頻度が無間伐林より低かった.L関数を用いて,個体の分布構造を解析すると,両調査区の開花・非開花個体とも集中分布する傾向を示した.また,1m2の区画ごとに,タデスミレの非開花個体の出現と生育環境の関係をロジスティック回帰モデルを用いて検討した結果,開花個体の個体数と土壌水分が有意に正の,開空度が有意に負の効果を及ぼすことが認められた.