| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 P1-101

北東北におけるニホンザルの生息地評価に基づくリスク管理手法の検討

*江成広斗(農工大・連農), 鈴木透(EnVision)

北東北に生息するニホンザルは、食料や薬の資源として、また農地を荒らす害獣として明治期以降狩猟され続けた結果、昭和初期には地域絶滅が危惧されるほど生息域が大幅に退縮した。残存した地域個体群は、その後生息域を回復させはじめている一方、その回復が農作物被害、更には市街地における生活被害という問題への引き金となっている。こうした本種の分布回復に伴う諸問題に対して、これまで着手されてきた地域スケールにおける対処療法的な被害防除技術の開発と同時に、長期的で広域スケールにおける被害の予防措置を個体群管理や生息地管理として検討することも必要である。そこで本研究では、それらの管理指針に対して有益な情報を提示しうると考えられる本種の生息適地マップ、及び猿害リスクマップの作成を試みた。生息適地マップの作成にはENFA(ニッチ要因分析)を利用し、本種の生息箇所としては第6回自然環境保全基礎調査結果を、生態地理学的変数としては地形・植生・土地利用・気象データを用いた。また、リスクマップの作成には、ENFAで示された各地のHSIをもとに、現在の本種生息箇所からのコスト距離を算出し、それを猿害発生リスクの相対的指標として用いることにした。現在の生息域である白神山地、下北半島、津軽半島に位置する生息適地はほぼ本種で満たされており、隣接する市街地においても相対的に高い猿害発生リスクが示された。一方で各地域個体群の間、更にはまとまった生息適地が見られる奥羽山脈との間には、分布回復を阻害すると考えられる生息不適地が存在していることも示された。本種の保護と人間活動との軋轢軽減を両立させるためには、集落へ向かう分布回復を抑止する一方で、非分布の生息適地へと個体群を誘導することが不可欠であり、それを実現するための野生動物管理技術の開発が急がれる。

日本生態学会