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一般講演 P1-104
近年、失われた植生を再生させるための手法として、土壌シードバンクを活用する方法が注目されている。事業に活用する際には事前にシードバンクの種組成を把握することが必要である。また有用なシードバンクを見出すためには、種組成と結びつきのある要因を把握することが有効である。
本研究では、霞ヶ浦をフィールドに、12地点から採取した湖底土砂中の土壌シードバンクの種組成を明らかにするとともに、採取場所付近の現存植生のフロラ、過去の植生帯規模、底質土壌粒径組成との関連性を検討した。
実生発生法による調査の結果、12の環境省レッドデータブック掲載種を含む94種・2808の実生が確認された。そのうち、リュウノヒゲモ等3種は1地点のサンプルからのみ検出され、分布に偏りが認められた。また、在来の湿地性植物(以下「再生目標種」)の種数・密度は、土壌採取場所間で有意に異なっていた。
土壌シードバンクのフロラと、採取場所近傍の現存植生のフロラとの類似性は低かった。一方、土壌採取場所ごとの再生目標種の種数および実生密度を従属変数とし、過去の植生面積と底質土壌粒径組成を独立変数とする重回帰分析の結果、過去(1970年代)の植生帯面積に有意な正の効果が認められ、中礫以上の礫とシルト・粘土分の土壌の含有率の双方に有意な負の効果が認められた。また、沈水植物の実生密度についても同様の解析を行ったところ、過去の沈水植物帯面積による有意な正の効果が確認された。
本研究の結果から、過去に広い植生帯が存在した場所の湖底のシードバンクは、植生再生事業に有用であると予測できる。一方、土壌粒径の効果については統計的な有意性は検出されたものの、一般性に疑問が残るため、知見の応用には注意が必要と考えられる。