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一般講演 P1-115

ライチョウコクシジウム(Eimeria uekii)の胞子形成時間から見た「宿主−寄生体」関係 〜Host-Parasite interaction〜

*市川陽子(日本大・生),永井里菜,肴倉孝明(山岳環境研究所),村田浩一

ニホンライチョウ(Lagopus mutus japonicus)は、生息数の減少が危惧されている国の特別天然記念物である。生息数減少の原因について諸種の研究がなされているが、感染症の影響に関する研究は少ない。消化管内寄生原虫であるライチョウコクシジウム(Eimeria uekii)は、糞便と共に外界に排泄された後、主に温度感作を受けて胞子形成し感染能を獲得する。これまでの野外調査においてコクシジウム陽性率には季節的変化が認められていることから、気温上昇と感染機会との関連が示唆された。そこで、温度変化とライチョウコクシジウムの胞子形成時間との関係を調べ、気候変動が「宿主−寄生体関係」に与える影響について検討を加えた。

2005年〜2006年に立山室堂平で採集したコクシジウム陽性の糞便63検体を供試した。糞便濾液と重クロム溶液との混合液を冷蔵装置付インキュベーター内で2〜45 ℃ の温度域で培養後、24時間毎に検鏡して胞子形成率を算出した。20〜30 ℃ の温度域では24 ± 1時間で胞子形成した。低温域では7 ℃ で432時間、高温域では33 ℃ で120時間経過後も胞子形成が確認できなかったことから、胞子形成可能な最低および最高臨界温度は、それぞれ8 ℃ と32 ℃ であると考えた。また、2 ℃ の温度上昇で胞子形成時間が最大72時間短縮したことから、生息環境の温度上昇で胞子形成が早まり、地域個体群内で本原虫の感染機会が増す可能性が推察された。本研究の一部は、科学研究費補助金(課題番: 16510179)、日本大学生命科学センター助成金および日本大学学術研究助成金により実施された。

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