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一般講演 P1-118
近年、全県レベルでレッドデータブックの出版が進んでいる。しかし、子どもたちを含む多くの市民は、地域の絶滅危惧生物の存在に実感を持つ機会はほぼ無いのが実情と考えられる。そこで福井市自然史博物館では、昭和27年の開館以来収集された標本を生かして福井県版のRDBを紹介した。博物館を会場にした特別展に加え、福井市内6つの小中学校と県の大型児童施設に実物標本を主体とした展示を巡回し、学芸員による解説授業も行った。授業ではRDBが作られた背景や代表的な絶滅危惧種・それらの存続をおびやかす要因について解説し、「自然・生きものを守ろう」といった安直なスローガンを強調しないように心がけた。授業後のアンケートをみると、概ねどの学校でも絶滅危惧という概念や種の多様性については気づくことができたようだが、これから自分達でできることを考える項目では、「生きものを大事にする」や「ゴミを捨てない」などの、具体性に欠けたり安直な回答が目立った。この原因として、子ども達は日常で実践できる具体的な方法を周囲から充分提示されていないためだと考えられる。当館では一つの提言として、身近な生きものの調査・標本作製を勧めている。もう一つの問題として、福井県では夏休みに標本採集が積極的に課される伝統が続いているが、現在では教師が種の同定や標本の作り方について充分指導できない状況がある。そこで、教員研修を催して標本を集める意味と製作方法について学んでもらった。その際のアンケートでは、「学習指導要領に沿わない内容の研修は参加しにくい・活用しにくい」という声が多かった。これらの学校側の声を参考にすると、学校教育において保全にかかる内容の位置づけに問題の根底があると考えられる。そのような状況を鑑みるに、社会教育の担い手としての博物館は、学社連携と声高にいわれる昨今でも、独自性を保ったテーマでの普及を進めていく必要があるだろう。