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一般講演 P1-128

水路からの導水による湿原植生の再生

*白川勝信(芸北 高原の自然館)

八幡湿原自然再生事業は2003年に始まり,現在進行中の事業である.事業対象地は広島県北広島町東八幡原に位置する西中国山地国定公園内の県有地,20.5haである.八幡地区は周囲を1,000m以上の山々に囲まれた海抜800mの高原の盆地で,気候は冷温帯にあたる.年間の降水量は2,400mmから2,600mmと多く,冬の降雪量は2m近くに達する.

八幡盆地には大小様々な湿原が存在し,それらすべての湿原において最近50年の間に14%から79%の面積が失われた.土嶽湿原は八幡盆地の千町原地区に存在していた.1964年から1686年にかけて広島県によって大規模草地として開発され,コンクリート水路の設置による排水や表土の改変,牧草の播種などが行われたが,現在は牧場が閉鎖され,自然公園として利用されている.草地整備事業により湿原の多くは消失し,現在ではハルガヤ,キンミズヒキ,ヨモギなどからなる草本群落や,ノイバラ,カンボク,カラコギカエデが群生する低木林へと変化した.

湿原の再生にあたり,コンクリート水路の撤去と導水路による湿潤環境の復元が提案されたが,こうした施行による植生の変化については未解明な部分が多いため,全体の工事の前に小規模な実験区を設けて植生の変化を継続的に観測した.実験地には,ヨモギやススキなどが見られる乾燥した立地,オタカラコウやヨシなどの生育するやや湿った立地,ミズゴケが生える湿原など,様々な環境が含まれていたが,実験の結果,導水後3年の間に湿原生植物の種数・優占度の増加が確認された.対照区においてはこのような変化は認められなかったため,水路からの導水は湿原植生の復元において,早い段階から有効に働くことが確認された.

日本生態学会