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一般講演 P1-130

葉緑体DNAの塩基多型を指標とした絶滅危惧種カッコソウとシコクカッコソウにおける遺伝的分化の把握と識別マーカーの開発

*大谷雅人(東大院・農),上野真義(森林総研),津村義彦(森林総研),鷲谷いづみ(東大院・農)

カッコソウ(Primula kisoana Miquel var. kisoana)は群馬県の鳴神山に固有の多年草である.過剰採集とスギなどの植林に伴う生育適地の減少により個体群の衰退が著しく,保全のための方策を早急に講じることが求められている.しかし,四国地方には形態的特徴の酷似した別変種シコクカッコソウ(var. shikokiana Makino:以下シコク)が分布しており,また両者の分類学的位置付けについての見解は統一されていない.このため,カッコソウを系統的に独立した「保全の単位」としてとらえるべきかどうかについて,客観的データにもとづく判断が必要とされている.

本研究では,カッコソウの16ジェネット(鳴神山で確認されているすべての個体),シコク4地点25個体,および「カッコソウ」として栽培されている2個体を対象に,葉緑体DNAの3つの遺伝子間領域における塩基多型を解析した.確認された11ハプロタイプはすべて単一の地域個体群もしくは山域のみに分布しており,カッコソウはシコクとは異なる単独の系統グループを形成していた.このことから,本変種が保全計画の対象(「種の保存法」における国内希少野生動植物種など)としてシコクとは個別に扱われるべきであることが示唆された.

この結果を踏まえ,両変種の間で異なる塩基配列を示すことが認められた葉緑体DNAの領域において8プライマー組を設計したところ,その半数においてカッコソウ特異的なPCR増幅が認められた.これらを変種識別マーカーとして活用することで,カッコソウ個体群の再生への活用が検討されている系統保存個体の出自がシコクやその園芸品種に由来するものではないことを簡便に確認することが可能である.

日本生態学会