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一般講演 P1-131
屋久島は急峻な地形で雨が多いことや亜熱帯から亜高山帯の気候帯を有しており種多様性は大変高い。しかし,近年シカの個体数増加による食害や林道の敷設工事など影響を受け林床植物は衰退したといわれ早急にその現状を把握する必要があった。そこで屋久島に生育する絶滅危惧植物の分布を調査し,生育地の予測を試みた。
絶滅危惧植物の分布調査は,1700地点で実地した。2004年4月から2006年11月にかけて島全域を踏査して絶滅危惧植物があった場所で位置座標をGPSで記録し,その半径10 m以内にある個体数を記録した。その結果,208種類の絶滅危惧植物が確認された。そのうち140種は,出現地点数は10地点以下であった。分布調査を行ったそれぞれの地点に以下の環境情報を与えた。標高,傾斜角度,夏至と冬至の日照時間,集水面積,年間降水量,シカの個体密度,植生図,地質図と土壌図から環境を抽出した。これにより個々の種について,1700地点の在・不在のデータと環境の情報が得られた。そして生育地を推定するために,GLM(一般化線形モデル)を用いて分布予測を行った。その結果,標高が分布を規定している一般的な要因で,日照時間や降水量によって分布が制限される種も多かった。また,着生種などは分布予測が困難であった。
1つの調査地でこれほど多くの分布調査を行い,複数の種について生育地予測をした研究例はあまりない。複数の種を解析することで,予測が困難な種があることや他の種とモデルを比較することで,種のもつ生態的な特性を把握することができた。今後,今回作ったモデルを利用してシカや人為撹乱が植物に与える影響を評価することや,将来予想される環境の変化に対して,シミュレーションを行うことが必要だろう。