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一般講演 P1-144

絶滅危惧種ヒヌマイトトンボの生息地として創出したヨシ群落の4年間の動態

*寺本悠子,渡辺 守(筑波大学・環境科学)

レッドデータブックにおいて絶滅危惧種I類に指定されているヒヌマイトトンボは、汽水域に成立するヨシ群落を生息地とし、同一のヨシ群落内で一生を完結する特異な生活史をもっている。2003年1月、三重県伊勢市で発見された本種の個体群の保全のため、生息地(約500m2)に隣接した放棄水田にヨシを密植し、海水と淡水を混合した汽水を流して、新たにヨシ群落(2110m2)を創出した。この年の4月から2006年10月まで、創出した群落において、ヨシの自然高と根際直径、稈密度、群落下部の相対照度について継続的に測定し、ヒヌマイトトンボの生息場所としての観点から評価を行なった。2003年の創出地のヨシ群落は、植え傷みなどの影響で稈密度は低く、自然高も低かった。その結果、ヒヌマイトトンボの生活空間となる群落下部の相対照度は既存生息地よりも高くなり、暗く閉鎖的な環境を好む本種にとって好適とはいえなかった。しかし翌年以降、創出地のヨシ群落は生長し、特に自然高は、当初の約60cmから2006年の約146cmへと伸長した。群落下部の相対照度は既存生息地と同程度(10%以下)にまで低下している。創出地のヨシの現存量の推定には、ヨシの自然高と密度に関する地図を作り、2005年に作った自然高と現存量の相対生長式を用いた。2006年6月の創出地のヨシ現存量は乾重で2.48kg/m2となり、物質生産の観点からも既存生息地と差がなくなりつつあると考えられた。密生したヨシ群落は、ヒヌマイトトンボの捕食者となる開放的な環境を好む蜻蛉目成虫の侵入を防ぐことができる。したがって、ヒヌマイトトンボにとって好適な環境が創出地内で作られたと考えられた。

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