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一般講演 P1-151

林床性草本トチバニンジン(ウコギ科)の生活史戦略

岡崎純子,小紫由美子(大阪教育大・教員養成)

両性植物の性表現の変異は生活史上の繁殖戦略として捉えられる。生活史では個体群の変動・生活史の生育段階の推移の特性は重要であり、これらに対し個体群統計学的な解析を行っていく必要がある。材料としたトチバニンジンはウコギ科の林床性多年生草本で両性花をつける。開花段階には主軸にのみ花序をつけるT-stageと主軸と側枝に花序をつけるL-stageの2ステージがあり、両者でその種子生産性が異なり、これがこの植物の性表現の「揺らぎ」となっている。本研究では、両性植物である本植物の性表現の「揺らぎ」の進化的な意味を探るため、生育段階の推移という点から生活史の特性を明らかにした。調査は、野外3集団に設置した永久コドラート(大阪府能勢町、京都府京大芦生演習林、富山県上市町)に生育する個体の追跡調査(1990~2006年)のデータを用いて、個体群の変動、開花サイズ、生育段階の推移の解析を行った。能勢町集団と芦生演習林集団では、1994年までは個体数の変動は安定していたが、1990年代後半から、鹿の食害の増加による個体の死亡に起因する著しい集団サイズの減少がみられ、このことが死亡率の増加を引き起こした。上市町集団では実生をのぞいた個体数はほぼ一定で安定しており、集団の個体数の変動は実生数の変動に起因しこの実生数の増減は種子生産を行う発育段階であるL-stageの増減に対応していた。この傾向は他の2集団でも個体数が安定していた時期には同様の傾向を示した。一方、開花サイズの閾値は種子(正確には果核)が重い集団ほど大きく、生育ステージ間の推移もより大きいサイズで移行するという集団によって異なる傾向が得られた。これらの結果からトチバニンジンはその開花と繁殖に関する生活史特性が集団によって変異し、それぞれの林床環境に適応した生活史戦略をとっているものと考えられる。

日本生態学会