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一般講演 P1-153

落葉広葉樹実生における成長・防御・貯蔵内のトレード・オフ関係

*今治安弥(東北大・院・農),酒井暁子(横国大・院・環境情報),上里季悠(北大・環境科学),松木佐和子(岩手大・農),清和研二(東北大・院・農)

森林群集を構成する樹木種においての実生の生存と成長にはトレード・オフ関係があることが知られており、これが多種共存を生みだす1つのメカニズムと言われている。実生の死亡は直接的には植食者や病原菌の天敵などによるものである。したがって、生存率を上げようとすると天敵からの防御や食害などのダメージからの再生に用いる貯蔵物質に多くの資源を分配する必要があるため、逆に成長への資源分配が減少すると考えられる。したがって、成長と防御・貯蔵の3者関係にはトレード・オフ関係が成立することが考えられる。本研究ではギャップと林内で育てたクリとミズナラの実生を用いて、種間で成長と防御・貯蔵の関係がどのように異なるのか又、ギャップと林冠下の異なる資源環境下でそのような関係がどうなるのかを明らかにすることを目的とした。

落葉広葉樹林内の4箇所のギャップと隣接する林冠下にクリとミズナラを播種した。翌年8月中旬に出現した実生を1種につき32個体を抜き取り、各個体の相対成長率(RGR)と葉の防御物質(総フェノール・縮合タンニン)と根の貯蔵物質(非構造炭水化物)を測定した。

ギャップではRGRはミズナラに比べてクリの値が高いのに対して、個体あたりの縮合タンニン量はクリに比べてミズナラのほうが高い値を示した。したがって、両種間で成長と防御の間にはトレード・オフ関係があることが示された。両種ともに林冠下に比べてギャップでは、RGRと防御物質濃度の値が高くなった。さらにクリではRGRの増加にともない縮合タンニン量は増加しないのに対して、ミズナラでは縮合タンニン量が増加した。このことより、より資源の多い環境ではクリに比べてミズナラではより防御に資源分配することが明らかになった。

日本生態学会