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一般講演 P1-156
実生はその後の生活史段階と比較すると脆弱であるため、種子の発芽時期は強い自然選択を受けると考えられる。一方、発芽時期は同一集団内の種子間で変異があることが知られている。自然選択は遺伝的に決定される形質をもつ個体に対してかかるが、発芽時期の適応的意義を扱う研究において、個体単位で生産種子の発芽特性およびその遺伝的側面に焦点をあてた研究は意外なほど少ない。本研究では、モウセンゴケ科のトウカイコモウセンゴケ(Drosera tokaiensis)を対象として、個体の発芽特性およびその発芽特性が遺伝するかどうかを確かめるために以下の実験を行った。2000年、2002年、2006年に石川県および愛知県のトウカイコモウセンゴケ自生集団から種子を採集した。各集団の各30個体からそれぞれ50粒もしくは100粒の種子を用いて発芽実験を行った。2000年の石川県集団の実生10個体は温室で育てて種子を2002年に採集し、同様に発芽実験を行った。その結果、同一個体の生産種子には最初の好適な環境条件で反応して発芽する種子と反応せずに発芽しない種子が存在し、発芽しなかった種子はある程度の日数が経過した後の好適な環境条件を与えられた場合に発芽した。また、好適条件で発芽する種子の割合は個体ごとに異なり、集団によってその割合のばらつきが小さい集団(石川県)と大きい集団(愛知県)があった。石川県の集団では、同じ親から由来する個体の生産種子は親と同様に、最初の好適条件で発芽する種子と発芽しない種子が存在し、その割合は個体間のばらつきが小さかった。トウカイコモウセンゴケの発芽時期の変異は、遺伝的多型や可塑性などによる個体間変異によるものではない同一個体内の種子間変異を含んでおり、発芽割合のばらつきが小さい集団は強い自然選択を受けていると考えられる。