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一般講演 P1-159

林床性多年生草本バイケイソウ(Veratrum album sub.oxysepalum)の生活史研究

*加藤優希,荒木希和子,大原雅(北大・院・環境科学)

バイケイソウは山地の林床や湿った草原に生育する、ユリ科の大型多年生草本である。北海道では平地の湿った林床や草原で一般的に見られるが、地上部は春から夏にかけての短い期間にのみ展葉し、物質生産を行う(Tani & Kudo, 2006)。バイケイソウは、種子による有性繁殖と地下茎によるクローン成長を行う。開花個体は雄性両全性同株であるが、その開花には豊凶があり、開花パターンについては十分に明らかにされていない。一方クローン成長については、開花ラメットが開花翌年に根茎の分岐により1~3個の子ラメットを生産し、それが繰り返されることで水平方向に広がっていくことが報告されている(谷, 2005)。このような二つの繁殖特性は、集団の遺伝的構造に影響すると考えられるが、バイケイソウにおける集団の遺伝的構造については明らかにされていない。そこで本研究では、バイケイソウ集団の遺伝的構造を把握するため、札幌市近郊野幌森林公園内のバイケイソウが優占する林床に30 m×60 mの調査区を設定し、3 m間隔の格子点から最も近い場所に位置する地上葉を採集して、酵素多型による解析を行った。その結果、3酵素4遺伝子座で多型が認められ、集団内には32のmultilocus genotypeが特定された。これをもとに空間的自己相関分析を行ったところ、集団内に遺伝的構造は認められず、同一の遺伝子型は集団全体に広がっていた。このことから、この調査区のバイケイソウ集団の遺伝的構造には、有性繁殖による遺伝子流動が大きく寄与していることが明らかになった。一方、根茎の分岐によるクローン成長は、集団の遺伝的構造への影響が小さいか、本研究で行ったサンプリング間隔(3 m)よりも小さな規模で生じている可能性も存在する。

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