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一般講演 P1-164

森林の断片化がクロビイタヤの種子生産と遺伝子流動に与える効果

*永光輝義(森林総研), 堀田万佑子(北大), 田中健太(シェフィールド大), 日浦勉(北大)

森林の断片化は、さまざまな空間スケールで樹木密度を下げ、しばしば種子生産を減らし遺伝子流動を増す。郊外の景観で絶滅危惧種クロビイタヤの種子生産と遺伝子流動に森林の断片化が与える効果を調べた。

北海道千歳市の700 haの調査区域の21の断片林で、全ての成木を記録し、樹木の周囲に散布された種子を採取した。マイクロサテライト3座を用いて、種子の充実率および成木と種子の血縁係数を測定した。

充実種子率は、100 m以内と316-1000 mの距離の成木数の増加にともない上昇した。成木と種子において、個体間の血縁係数は距離とともに低下した。同じ距離にある種子間の血縁係数は、断片林間よりも断片林内で高かったが、成木では違いはなかった。同じ木の周囲から採取した種子間の血縁係数は、10-31.6 mの距離の成木数の増加および31.6-316 mの距離の成木数の減少にともない低下(つまり遺伝子流動が増加)した。

これらの結果は、断片林内の局所的成木密度の上昇によって交配機会の増加と種子散布範囲の重複が生じ、種子生産と遺伝子流動がともに増加するが、より広域の成木密度は複雑な効果を持つことを示唆している。空間的遺伝構造は、距離による隔離および断片林間の小さい遺伝子流動を示している。これらの知見から、森林の断片化は、種子生産を減少させるが、必ずしも遺伝子流動を増加させるとは限らないと言える。

日本生態学会