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一般講演 P1-182
両性生物における雄器官・雌器官への投資比(性分配比)が種子休眠の効果により偏りが生じるかについての、理論的解析とツユクサ属近縁2種を用いた検証を行った。
花粉の空間的な分散率が種子の空間的な分散率よりも低いときには、娘間での資源競争よりも息子間での競争のほうが強くなり、結果としてより雌偏向の性分配が進化的に安定になることが理論的に知られている。このような空間分散の効果と同様に、種子休眠という時間的な分散も性分配に影響を与えるかどうかをシミュレーションモデルにより解析を行った。その結果、種子休眠率が上がるにつれて種子間での局所的な資源競争を弱める効果が働き、より雌偏向の性分配比が進化的に安定になるという帰結が理論的に予測された。
この予測を、日本産ツユクサ属植物ツユクサ、マルバツユクサの比較により検証した。この近縁2種間ではツユクサよりもマルバツユクサのほうが顕著に雌器官への投資が大きかった。このような性分配変異を説明するモデルとしてCharnov(1982) は、自家受粉率が高くなるほど雌への投資が大きくなると予測した。しかしこの2種間では、アロザイム多型解析の結果有意な自家受粉率の差は認められなかった。先行研究から、マルバツユクサは発芽しやすい少数の大種子と発芽しにくい(休眠する)大多数の小種子を持つという顕著な種子2型がある一方で、ツユクサはよく発芽する1種類の種子のみをもつことが知られており、マルバツユクサはツユクサに比べて種子が発芽しにくい(休眠する)傾向を持つことがわかった。以上から、2種間の性分配変異は種子発芽・休眠動態の違いという時間的な分散の効果の違いによってもたらされていると考えられた。