| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨 |
一般講演 P1-184
雌雄異株植物では繁殖段階における性差が知られている。このような性差は一般に、雄と雌の適応度上昇に対する戦略の違いによるものと考えられている。また、クローン植物ではモジュール間の生理的統合(ジェネット内におけるラメート同士の相互作用)が知られているが、ジェネットの構造が個々のラメートの開花に及ぼす影響に対する議論はあまりされてこなかった。性差を扱ったこれまでの研究の多くは細かいモジュールレベルを対象としているが、適応的な意義を理解する上ではジェネットの挙動をとらえることが重要である。本研究では発達した株構造を持つ雌雄異株低木シロモジを対象としてジェネットレベルの開花パターンにおける性差を検討した。
長野県赤沢ヒノキ林に設置された4haプロット内に生育するシロモジのラメートごとの開花の有無と花序生産数を3年間調査し、一般化線型混合モデルにより株の構造と光条件が開花パターンに及ぼす影響について解析を行った。その結果、ジェネット内の開花ラメート数および開花ラメートの最小サイズにおいて性差が認められた。雄ではそれらが光条件に鋭敏に応答し、光条件の改善にともない前者は増加し、後者は低下した。一方、雌ではそれらに変化は認められず、3年間一貫した傾向を示した。また、ラメートの開花確率・花序生産数に及ぼすジェネットの構造(ジェネット内におけるラメート数、最大ラメートのサイズ)の影響が認められた。また、それらに性差が認められ、雄ではジェネット内における最大ラメートのサイズが増加するに従い、個々のラメートの開花確率は上昇したが、雌では逆に開花確率は低下した。このことは、雄では多数のラメートを繁殖に参加させる傾向であるのに対し、雌では逆に開花ラメート数を少なく保つ傾向を意味し、雌雄では適応度上昇に対する応答がジェネットレベルにおいて異なると考えられる。