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一般講演 P1-198
熱帯地域では高温多湿の気候に伴い、多くの土壌で栄養塩に乏しく、その風化の終末過程ではリン制限が生じると考えられている。そのため、低リン土壌環境に対する樹木の適応を解明することは重要であり、生葉中のリン含有率について詳細を知ることもその一角である。植物生理生態学分野において、生葉中の全リン含有率を測定した研究は熱帯地域に限らず数多くあり、熱帯地域においてもこれまで多くの研究で樹木生葉中および葉リター中の全リン含有率の測定が行われてきた。リンは植物の必須元素に挙げられ、無機態で根から吸収された後、糖リン酸・核酸・リン脂質などの有機態に変わる。また、生葉中の全リン含有率は光合成速度と相関し、落葉時には再吸収が行われる場合も知られている。低リン土壌環境下に適応した植物は有機態画分の比を最適化している可能性があり、そのため、全リン量よりも生理機能に即した画分量の方が意義深いと考えられる。さらに、このリン画分は各生理機能との関係性を検証するための基盤となるだけでなく、生態系における生産過程と分解過程を繋ぐ基盤となる可能性がある。しかし、今までに植物体内のリンを画分に分けて分析した研究はアラスカやオーストラリアにおける数例だけであり、熱帯林ではこの研究がおそらく最初である。
本研究では、調査地に土壌中リン量の乏しい熱帯山地林(マレーシア・ボルネオ島キナバル山の標高1700m付近)を選び、優占樹種を中心に林冠より生葉を採集した。その生葉中のリンをKedrowski(1983)の方法を基に5種類(脂質・核酸・エステル・無機・その他)に分画し測定した結果を報告する。