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一般講演 P1-200

八丈島におけるテングサ藻場の変化と沿岸域の栄養塩環境特性

*高瀬智洋,田中優平(都島しょ農水総セ・八丈),黒川信(首都大・院理・生命科学),野原精一(国立環境研・アジア自然共生)

藻場を構成する優占海藻種の盛衰は、それ自身のみならず沿岸域の生態系の変化をももたらす。その要因として、地域的にみると、太平洋側沿岸では、高水温、貧栄養の黒潮系暖水の流入による沿岸域の水質環境の変化を指摘している報告が多い。一方、沿岸の海の生物生産は、陸からの栄養物質供給の影響を強く受けるといわれて久しい。しかし、実際に陸からの栄養物質供給、例えば陸水中に溶存する窒素栄養塩に代表される陸起源栄養の供給などが生物にどの程度影響を与えているかを明らかにした報告は少ない。窒素栄養物質の海藻への影響に関しては、窒素の安定同位体比(δ15N)が、トレーサーとして有効で、利用可能性が注目されている。そこで、伊豆諸島八丈島にて、沿岸域の栄養塩特性について明らかにするとともに、藻場の優占海藻種であるテングサ科マクサの分布と藻体のδ15Nの調査も行い、陸水および外洋水を介した沿岸域への窒素栄養供給に対するマクサへの影響について検討することを目的に本研究を始めた。

調査は2005年から複数海岸で進めている。沿岸水、沖合水および海岸線で陸水を採水し、栄養塩濃度を分析。また、マクサの被度調査および藻体の採集とδ15Nの分析を実施。

これまでの結果から、沿岸域の栄養塩濃度は、湧水や海底湧水といった陸水が認められた海岸で高く、また、黒潮が蛇行し、八丈島の南を流れた時期には顕著な増加を示すことがわかった。マクサ藻体のδ15N値の分布に関しては、海岸間で有意な差があり、また、一部の海岸では、δ15N値と硝酸態窒素濃度の間に負の相関がみられた。講演では、δ15N値、栄養塩濃度、およびマクサの分布との関係について、考察をおこなう。

日本生態学会