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一般講演 P1-202

重油の煤塵がヤマザクラの根系の生長に与える影響

*田上公一郎,尹 朝煕,中根周歩(広島大・生物圏)

原油や重油の燃焼から発生する煤塵が植物に与える影響について多くの研究がある。しかしその多くは植物の地上部への影響を調べたもので、根系への影響を調べたものは少ない。我々は「大気汚染による根系衰退説」に基づき、煤塵暴露が根系に影響し、植物のその後の成長の影響を与えると考えている。本研究は紀伊半島南部のヤマザクラの衰退の調査の一つとして、2006年の5月から12月の約7ヶ月間、中国産原油から得られた煤塵を2年生のヤマザクラの葉面に散布し根系の成長に与える影響を調べたものである。散布量は、煤塵による生育障害が懸念される地域の葉面への煤塵の付着量の推定値7mg/lの3倍、10倍、および0倍(対照)とした。、これを半円形の天井部をフィルムで覆った温室内と野外の異なる環境の3種の曝露濃度の処理がなされた、それぞれ10本のヤマザクラに、毎週3回早朝にその水溶液を曝露した。2006年12月に掘り上げ、根系を太根(2mm以上)、細根(2mm以下)に分けて計測し、対照区と煤塵曝露処理区間の生育の差異、および温室の内と野外における生育の差異を調べた。その結果、対照区と煤塵曝露区の生育の差異(分散分析・多重比較)は全根量、太根量、細根量ではみられなかったが、細根率(細根/全根量)では有意な差が見られた。さらに温室の内と野外の生育の差異は、細根率において野外に有意な低下がみられた(t検定)。以上の結果から、煤塵曝露と野外にみられる酸性降下物などによる複合的な光合成の低下(中根ら,2006)がもたらす光合成産物の減少は、ヤマザクラでは地下部の細根の生長を阻害し、地上部への養水分の供給能を低下させ、ひいてはヤマザクラの衰退をもたらす可能性が示唆された。

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