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一般講演 P1-206
<はじめに>
多くの陸上生態系で窒素は植物の成長の制限要因であり、植物は窒素を効率よく利用するため、窒素の転流を行うことが知られている。窒素の転流はシンクとなる新しい器官の存在・発達の影響を受けることが摘芽試験の結果から報告されている。しかし、これらの先行研究で摘芽は展葉開始直前か開芽後に行われており、芽の形成からの影響は明らかにされていないことが多い。本研究では殆どの枝に芽が形成された直後の11月初旬に摘芽を行い、芽の形成以降の旧葉の働きについて考察する。さらに、葉は主要な窒素同化の場であるが、旧葉の窒素同化が新葉の展葉にどのように寄与しているかについても、植物の窒素源として最も重要な物質の一つである硝酸態窒素に着目し、旧葉の硝酸同化と新葉の展葉の関係について明らかにする。
<調査地と方法>
京都大学中央キャンパス内のクロマツ成木を対象とした。5個体について、林冠下層(地上1.5~2.5m)の長さ1m以上の枝を各一本選び、新芽を全て除去した。また無処理の5個体をコントロールとした。硝酸同化の指標として硝酸還元酵素活性(NRA)を用い、同時に測定した窒素濃度や硝酸濃度と合わせて処理間で比較した。さらに旧葉除去処理個体も設けて展葉への影響について考察する。
<結果と考察>
(1)摘芽処理(11月)〜2月:コントロールでは旧葉の窒素濃度が上昇し、摘芽処理より高くなったことから、芽があることで旧葉への窒素の貯蔵が起こる可能性が示唆された。
(2)展葉開始直前:コントロールの旧葉のNRAが摘芽処理より高くなったことから、展葉開始直前に芽があることで旧葉の硝酸同化が活性化されることが示唆された。
(3)展葉期:旧葉の窒素濃度はコントロールのみ減少し、旧葉から新葉へ、展葉に伴う窒素の転流が起こることが示唆された。