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一般講演 P1-211

前年度の乾燥ストレスがダケカンバの形態と光合成機能に及ぼす影響

*田畑あずさ,小野清美,隅田明洋,原登志彦

乾燥ストレスによる光合成速度の低下は,植物体内での過剰光エネルギーを増加させ光阻害を引き起こす。この光阻害を防御するために働く過剰光エネルギー消去機構は,乾燥ストレス下の植物では,より活発に働くことが予想される。ダケカンバ(Betula ermanii)は北方寒冷圏に生育する落葉広葉樹であり,その形態的・生理的特性,春葉と夏葉の特性の違いは低温・乾燥を気候特色とする北方寒冷圏での生存に重要な役割を果たしていると考えられる。第52回大会では,乾燥ストレスによってダケカンバ苗木の成長や光合成速度が低下し,過剰光エネルギーを熱として消去するキサントフィルサイクルの脱エポキシ化の割合が増加することを報告した。今回はその結果をふまえ,前年度の乾燥処理がその年のダケカンバの形態や光合成機能にどのような影響を与え,再度の乾燥処理に対してどのように応答するのかを調べた。

ダケカンバ苗木を前年度乾燥,および未処理の個体から各々乾燥処理と未処理の個体に分けた計4種類の処理グループで生育させた。ダケカンバの苗高はその年の処理に関わらず前年度の乾燥処理個体で小さく,基部直径は前年度の処理に関わらずその年乾燥処理をかけたもので小さい傾向を示した。根とシュートの重量比は処理の影響を受けずほぼ一定の値であった。飽和光下での光合成速度はその年の乾燥処理で低下が見られ,春葉においては前年の乾燥処理によってその年の乾燥処理による低下が鈍い傾向を示した。脱エポキシ化の割合は,春葉の乾燥処理個体で早い時期から増加が見られたが,その中でも前年度の乾燥処理は増加を鈍らせる傾向を示した。

以上の結果から,ダケカンバは前年度に受けたストレスに対する耐性を持つ春葉を展開し,長期的なストレス対しては成長を低下させ枯死しない程度の生育を続けることで生存を可能にしていると考えられる。

日本生態学会