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一般講演 P1-213
地球の平均気温は、今世紀中に約1.4〜5.8度上昇すると予測されている。かつてない急激な温度上昇が、植物の生理特性や形態特性に影響し、種間相互作用の変化、さらには種組成の変化をもたらすことが懸念されている。我々は、種組成変化に至るプロセスとして、光をめぐる種間競争に着目した。本研究は、温暖化の影響に敏感な生態系の一つと考えられている高層湿原(青森県八甲田)を調査地とし、標高傾度(590,1030,1290m)を利用して異なる温度環境に成立する群集間の比較を行った。各標高に生育する種の形態的特性から、それらの光獲得競争が温暖化によってどのように変化するかを予測することを目的とした。地上部現存量が最大になる8月に層別刈取を行い、競争力の指標としてバイオマスあたりの光吸収量(光獲得効率)を計算した。
群落バイオマスおよび群落高は低標高で高かった。種の光獲得特性に関して、まず機能型(functional type)に着目して調べた。標高に関わらず、常緑種は落葉種に比べて、木本種は草本種に比べて光獲得効率が低かった。また、葉の角度に着目すると、群落バイオマスの高い群落において、葉角が水平に近い種ほど背丈が低く、受光強度(葉面積あたりの光吸収量)が低かった。次に、高標高に出現する種(高標高種)と低標高に出現する種(低標高種)および三標高に出現する種(全標高種)の特性を各標高別に調べた。高標高では全標高種の光獲得効率が高かった。低標高では、光獲得効率に違いはなかったが、全標高種に比べて低標高種の背丈が高く、受光強度は高い傾向にあった。以上の結果から、群落バイオマスおよび群落高の増加に伴い、種の背丈が競争力に重要になることが示唆された。このことは、温暖化によって、背丈を稼ぎ群落上層に葉を展開できる種が競争関係を有利に進められることを示唆している。