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一般講演 P1-216
ブナ当年生実生の消失には菌害による立ち枯れが関与する。立ち枯れの発生率は光環境によって異なるが、その要因については十分に明らかにされていない。本研究では、光環境によって当年生実生の菌害発生率が異なる要因について実生の防御機構の側面から明らかにするために、光環境の異なる林縁(相対照度35.5%)と林内(2.6%)に生育するブナ当年生実生について、生残率と菌害に関与する病原菌、実生胚軸部の表皮組織構造、トータルフェノール(TP)量の変化を比較した。また、胚軸部のメタノール抽出物の病原菌に対する抗菌活性を調査した。5月の発芽から9月の落葉までの間に、立ち枯れによる枯死は6月下旬から7月に最も多く発生し、9月の生残率は林縁の93%に対し林内は50%と低かった。実生の胚軸下部からは林縁林内共に期間を通じてColletotrichum dematium、Fusarium sp.が主に分離され、接種試験の結果両菌に病原性が認められた。7月初旬に胚軸下部の表皮部には、林縁で周皮が形成されていたのに対し林内では明瞭ではなかった。実生胚軸部のTP量は6月初旬にはプロット間に差は認められなかったが、6月中旬には林縁で林内の約4倍となり、その後も林縁の方多かった。メタノール抽出物のうち酢酸エチル層にC. dematiumの胞子発芽抑制活性が認められ、この活性は林内に比べ林縁の抽出物の方が強かった。これらの結果から、光強度の異なる立地における菌害発生率の差異には、病原菌に対する化学的および組織学的防御機構が機能していることが推察された。この化学的防御機構に関与する物質を同定する必要がある。