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一般講演 P1-222

小笠原における外来樹種アカギの侵入メカニズム −窒素環境変動下の外来種と在来種の応答−

*大曽根陽子(森林総研),矢崎健一(森林総研),石田厚(森林総研)

小笠原諸島は周囲の大陸や島から隔絶した海洋島であるため、固有樹種率が極めて高い。しかし、現在多くの移入樹種が分布を拡大し、固有樹種の分布域を脅かしている。移入樹種の中でも、ひときわ固有種への影響を懸念されているのがアカギである。アカギは林冠ギャップや撹乱地を足がかりに在来種と置き換わり、小笠原諸島の各地で純林を形成しつつある。

林冠ギャップが形成されると、林床の光強度が上昇するとともに、土壌温度が上昇し、硝化が促進されて一時的に土壌窒素量が増える(窒素パルス)。ギャップや撹乱地でのアカギの優位性は、このような資源変動に素早く順化する能力に起因すると考えられる。先行研究では、アカギが光強度の上昇に対して、在来種よりも高い生理的形態的順化能力をもつことが示されている。窒素もまた光合成能力や成長の増加に不可欠な要素であり、窒素パルスに際し、素早く窒素を獲得し、獲得した窒素を用いてより早く成長を大きくする能力はギャップへの侵入成功に関わる重要な因子であると考えられる。そこで本研究では、移入樹種のアカギと在来種3種を用い、土壌窒素の変動に対する根の性質、光合成能力、葉の解剖学的な性質の変化を比較した。

土壌窒素の増加に反応して、アカギは窒素吸収能力の高い細根を形成し、他の樹種よりも多量の窒素を吸収した。窒素の吸収量が多いアカギは光合成能力の増加が他の樹種よりも大きかった。さらに、土壌窒素変化時に展葉中だった葉は細胞分裂および細胞伸長を大きく増加し、すばやく葉面積を拡大していた。この結果、窒素条件変動にともなるアカギの成長速度の変化は在来種よりも大きくなった。この実験から、アカギはギャップ形成時に増加する窒素を他の樹種よりも効率的に獲得し素早く成長を増加させることでギャップ内への侵入に成功している可能性が示唆される。

日本生態学会