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一般講演 P1-223
林内の弱光環境に生育する樹木にとって、資源を効率的に利用して葉を広げることは、限られた光を獲得して光合成し、生き延びる上で重要である。個体レベルの展葉効率である葉面積比(LAR)が個葉の形態的特性を強く反映することは知られているが、どのような形態の葉を生産する樹種でLARが大きいのか、不明な点が多い。その背景には、LARの大きい個体では葉寿命が長い、または比葉面積が高いが、葉寿命と比葉面積とにトレードオフがあることが挙げられる。そのため、温帯林に共存する常緑広葉樹と落葉樹という、葉の形態と寿命の対照的なグループ間で、LARはどちらが大きいのか、明らかではなかった。本研究は温帯針葉樹人工林の下層に生育する、落葉樹一種と常緑広葉樹4種の稚樹を対象に、LARと、LARに関わる諸形態的特性の測定と比較を行い、生産する葉の形態・寿命の違いが、展葉という個体レベルの振る舞いに反映されているのか、検証した。そして、個体の成長状態やおかれた環境に応じたLARの変化を調べて、様々な成長状態・環境に応じた個体のLARの反応を予測した。個体レベルのLARには種間差が見られたが、常緑広葉樹と落葉樹の樹種グループ間に明確な違いは見られなかった。人工林林床の光環境の空間変異は小さく、LARなど諸特性の光環境に沿った変化は観察されなかった。地上部に占める当年枝の重量割合の変異という、個体の成長状態を代表する指標に応じたLARの変化は、落葉樹では観察されたのに対し、常緑広葉樹では観察されなかった。本研究により、人工林林床に共存する落葉樹と常緑樹は、異なる戦略を採りながらも、同程度のLARを達成できていることが明らかになった。また、旧年葉を蓄積する常緑広葉樹と比較して、落葉樹では高いLARの達成など、林床で生き抜く上での振る舞いが、個体サイズや成長速度などに強く依存することを明らかにした。