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一般講演 P1-230

択伐後のササ植生に生育するブナ稚樹の樹冠非対称性

八木貴信(森林総研 ・東北)

個体周囲の光環境と植生状況(下層木高など)の不均一性に対し,高木稚樹が示す樹冠形態の可塑性を明らかにするため,ササが繁茂する択伐10年後のブナ疎林で,様々なサイズのブナ稚樹の樹冠非対称性を調べた.調査は,岩手県雫石町秋田駒ヶ岳東面の竜川国有林,標高約860 mの緩斜面でおこなった.調査地では1992年に林冠木の択伐が行われたが,その際,刈払いなどの林床処理は行われなかった.調査当時(2002 - 2003年),その林床には平均約150 cmの高さでチシマザサが繁茂しており,そこに様々な下層木がモザイク状に混生していた.樹高0 - 250 cmのブナ稚樹を対象に,その周囲の物理的・生物的環境が水平・垂直方向に示す変異を定量化した.その結果を,稚樹の樹形特性(1次枝の分枝形態,分枝構造,シュート個体群特性など)に見られる樹冠内変異と関連づけた.稚樹周囲の光環境は水平,垂直の両方向で変異を示したが,水平方向の変異は垂直方向のそれにくらべると大きいものではなかった.植生状況に見られる水平方向の変異もそれほど大きいものではなかった.樹形特性には水平,垂直の両方向での変異が存在し,その変異パターンは個体サイズに応じて変化した.ただし水平方向の変異は垂直方向にくらべて小さく,稚樹周囲の光環境,植生状況との対応も明瞭ではなかった.稚樹サイズに応じた樹冠非対称性パターンの変化は,個体発生的に変化する周囲植生との相互関係を反映した成長戦略変換を示唆している.水平方向での環境変異と樹形変異との関係が不明瞭だったことは,この変換が可塑的なものではなく,成長軌道として内的にコントロールされたものである可能性を示している.

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