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一般講演 P1-240

分枝と枝通導性の関係

*吉村謙一,石井弘明(神戸大自然科学)

樹木は分枝を繰り返すことにより樹冠を拡張し、新しい空間を獲得する。枝は樹木内での重要な水の通り道であるため、分枝によって水の通導経路が規定される。樹冠上部に位置するシュートと樹冠下部に位置するシュートでは根から葉に至る水の通導距離が異なるため樹冠上部では樹冠下部に比べより大きな水分ストレスを受けていると考えられる。本研究では北海道大学苫小牧演習林内のミズナラを用いて樹冠内のシュート位置に注目し、分枝と枝の水分通導性の関係を調べ、分枝の適応戦略について考察した。

土壌から当年シュート基部までの通水コンダクタンスは樹冠上部は樹冠下部より小さかった。樹冠上部では分枝数の多い枝ほど通水コンダクタンスは大きかったが、樹冠下部では分枝数による通水コンダクタンスの差異はみられなかった。当年シュートの通導度を測定すると樹冠上部・下部で差がみられなかった。樹冠上部では分枝数が多い枝ほど通導度は大きかったが、樹冠下部では分枝数による通導度の差異はみられなかった。枝断面積/葉面積は樹冠上部は樹冠下部より大きかった。樹冠上部では分枝数が大きいほど枝断面積/葉面積は小さかったが、樹冠下部では分枝数による差異はみられなかった。

以上の結果から水ストレスにさらされる土壌からの通水コンダクタンスの低い樹冠上部枝では多く分枝するシュートの通導性をよくすることにより、分枝の多いシュートへ優先的に水を流していることが分かった。一方で通水コンダクタンスが高い樹冠下部枝では水ストレスが小さいため、分枝による通導性の差異がみられないと考えられる。光環境が満たされている樹冠上部枝は樹冠拡張機能を担っていると考えられるが、分枝の多いシュートへの優先的な水分配は樹冠拡張にとって都合が良い。このように水分通導効率の差異は分枝の適応戦略に関係していることが示唆された。

日本生態学会