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一般講演 P1-241

常緑樹実生の冬の光合成産物のトレース

杉浦大輔(東大理),野口航(東大院理),寺島一郎(東大院理)

温帯の常緑樹は秋から冬にかけて冬芽を形成し、翌春まで展葉、枝の伸長、幹の肥大成長は停止する。一方、温帯の常緑樹では冬期の光合成による炭素獲得が無視できない量であることも指摘されている。それでは冬期に得られた光合成産物は常緑樹の個体内でどのように使われているのだろうか。本研究では、常緑針葉樹のスギと常緑広葉樹のヤブツバキの一年生実生を材料として、炭素安定同位体を用いたトレース実験を行うとともに、各器官における非構造性炭水化物(NSC)量の季節変化を調べることにより、冬期の光合成産物の分配と利用の実体を調べた。11月から2月までの期間、毎月スギとツバキの実生の地上部全体に13Cで標識したCO2を与えた。一定期間後にサンプリングし、各器官の炭素安定同位体比を測定することにより光合成産物の分配比を求めた。また葉の最大光合成速度、各器官の乾燥重量とNSC量を調べた。葉の最大光合成速度はスギ、ツバキともに11月から12月に減少傾向にあったが、個体レベルの炭素収支は正であると推測された。11月から12月にスギ、ツバキともに根の乾燥重量が有意に増加していた。また、ツバキでは葉面積あたりの乾重量が有意に増加していた。炭素安定同位体のトレーサー実験による各器官への光合成産物の分配も上記の結果を支持した。これまでの結果から、冬期に獲得した光合成産物は、葉に蓄えられるとともに、根に転流され、根の成長に用いられることが示唆されている。NSCの結果と合わせて、常緑樹の冬期の光合成産物の利用について考察する予定である。

日本生態学会