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一般講演 P1-244
森林の水循環や炭素循環を考える上で、重要なファクターの一つである個葉のガス交換特性を温帯ヒノキ林に於いて観測し、その時空間分布と光環境との関係について考察を行った。滋賀県南部の40年生ヒノキ林において2003年7月および8月に上、中、下層にわけてガス交換速度等の測定、C/N比および炭素安定同位対比の測定を行った。
ヒノキ樹冠の上層では相対光合成有効光量子束密度(rPPFD)は広い範囲で分布しており、光飽和時の純光合成速度(Asat)は高い値で分布していた。下層では各葉のrPPFDにばらつきは小さく、Asatも小さかった。中層の葉ではrPPFDは大きくばらつき、上層と同じような値をとったが、AsatはrPPFDと良い相関は見られず、大きなrPPFDでもAsatが小さい葉が見られた。上層の葉では、C/N比とrPPFDとの間に正の相関が見られた。2003年7,8,10月にサンプリングした葉のδ13Cはいずれの期間においても上層で高く、下層で低くなる傾向が見られた。葉面積は上層と中層で4月から9月にかけて急激に増加し、その後11月頃までは微増していた。上層では多くの葉が一年で2倍以上葉面積を増加させていたのに対して、中層では3倍以上葉面積を増加させる葉もあれば、ほとんど増加しない葉もあった。下層では、わずかに増加する葉があるものの、ほとんどの葉が9月以降には落葉してしまっていた。
以上の観測結果から、樹冠上層および中層ともに光環境の不均一性は大きいが、上層では光合成能力が高く安定して成長し、中層では光環境に応じた光合成能力を持ち合わせておらず、生長量の不均一性も大きく、下層では、光量子束密度が急激に減少し、弱光下で生育できるよう適応しているものの光合成能力は低く、落葉していると考えられた。