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一般講演 P2-009
河川の付着微生物群集は藻類、バクテリア、菌類の複雑な集合体であり、生産と分解の両方の役割を担っているため、河川の有機物動態に重要な役割を果たしている可能性がある。本研究では平地を流れる小河川の有機物動態に対する付着微生物の役割を明らかにすることを目的とし、付着微生物の現存量、光合成速度、溶存有機炭素(DOC)に対する影響を調べ、年間の生産量とDOC溶出量を推定した。
広島県を流れる黒瀬川の支流の三永川に調査区を設定し、年間を通じて礫上の付着微生物のchlorophyll a量と現存量(AFDW)を測定した。また、付着微生物の生産量を推定するため、2ヶ月に一回、現地の流速と水温を再現したチャンバー実験により光−光合成曲線を求めた。さらに、礫よりはがした付着微生物を河川水を満たしたフラン瓶に入れ、自然光下で24時間にわたり溶存酸素とDOCの濃度を測定した。
礫上の付着微生物のchlorophyll a量とAFDWは流量等の影響を受け変動したが、年間を通じてそれぞれ30~220 mg chl a-1m-2、5~20 g C m-2の範囲にあった。チャンバーを用いた実験では、季節にかかわらず弱光下でも酸素放出が認められ、本調査地の付着微生物群集が年間を通じて生産系として機能していることが明らかになった。また、フラン瓶を用いた実験から、光合成産物の一部がDOCとして溶出していることが示唆された。
以上の結果と年間の日射量のデータからモデルを作成し、生産量とDOC溶出量の推定を行った。その結果、三永川における付着微生物の純生産量は192 g C m2yr-1と見積もられ、その約35%がDOCとして溶出したと推定された。これらの結果と、黒瀬川本流で測定した付着微生物量の現存量をもとに、流域の炭素フローにおける付着微生物の役割について考察した。