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一般講演 P2-012

南極半島におけるコケリターの分解と微生物バイオマス

*内田雅己(極地研), 吉竹晋平(広島大・院・生物圏), Kim Ji Hee(KOPRI), 神田啓史(極地研)

コケは極域陸域生態系において重要な光合成生物であり、物質循環に与える影響は大きい。極域におけるコケの光合成特性や生産に関しては多くの研究が行われている一方、リターの分解に関しては、未だ不明な点が多く残されている。本研究では、海洋性南極において、シュートの年次成長を判別できるコケを用い、コケの分解とそれに関与する微生物バイオマスとの関係を調査した。

2006年2月、南極半島にあるキングジョージ島に生育するオオハリガネゴケ(Bryum pseudotriquetrum)を褐色部まで採取した。採取したコケはシュートを年次ごとのセグメントに分けたのち、凍結乾燥した。その後、セグメント毎の重量を測定し、分解率を推定した。さらに、セグメント毎のCN分析および微生物バイオマスの指標であるリン脂質脂肪酸(PLFA)分析を行った。

オオハリガネゴケの面積あたりのセグメント重量は、2005年に生産されたセグメントが最も重く、それより古くなるにつれて減少する傾向が認められ、年間の分解率は14%と推定された。南極におけるコケの分解率は、嫌気的な場所での分解率である0.1%から好気的な場所における25%までと幅広い値が報告されており、本調査結果は報告された値の範囲内だった。セグメントのCN比は、N濃度の減少に伴い2006年に生産されたセグメントから2003年に生産されたセグメントかけて増加した。一方、バクテリア由来のPLFA量は、コケ1gあたり数十〜数百nmolであり、セグメントのageとの間には明瞭な関係は認められず、サンプリング地点の違いによるばらつきが大きかった。以上より、コケリターに生息するバクテリアのバイオマスは基質の分解段階以外の要因に強く規定されている可能性が示唆された。

日本生態学会