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一般講演 P2-019

土壌C/Nの操作に対するイタドリの反応

*金子信博,酒井暁子,藤巻玲路(横浜国大・環境情報)

大気からの窒素降下物の増加は窒素不足であった森林土壌のC/Nバランスを変え,土壌生態系や植物に大きな影響を与えることが予測されている.しかし,森林生態系がどのように反応するかについては,まだよくわかっていない.窒素のように不足がちの栄養塩類が負荷されると,植物の成長はよくなるだろうが,もしあまりに窒素のみが多いと,他の制限要因のせいではなく,窒素そのものの影響で成長が阻害されるかもしれない.丹沢山地は首都圏から数十キロメートルに位置し,窒素降下量が多いと推測される.西丹沢にはトーナル岩と呼ばれる特殊な花崗岩があり,すでに我々の野外調査で土壌表層の窒素無機化速度が高いことがわかっている.今後増大する窒素負荷の影響を緩和する効果をねらって,環境制御装置(アーストロン)を用いて炭素源を土壌に散布し,イタドリの反応を観察するポット試験を行った.C/Nの高い木材チップを土壌に散布し,窒素をヘクタールあたり年間0, 10, 100 kgに相当する量を硝酸アンモニウムの形で散布した.西丹沢で採取したイタドリ種子を発芽させ,ポットに移植し,90日間栽培した.窒素の負荷量が増加すると,イタドリの成長はよくなったが, 100kg Nの負荷では,葉に障害が認められた.木材チップ散布はイタドリの成長を著しく抑制したが,窒素高負荷条件ではイタドリは健全に生育した.木材チップはC/Nが高く,当面の窒素降下量の増大に対して,応急措置として窒素を土壌に吸着させるために利用することができるかもしれない.間伐材からも調達できるので,利用が進んでいない間伐材が利用できると,森林管理のうえからも有効利用の可能性が広がる.イタドリの成長解析と土壌窒素動態の解析から,木材チップ散布による,土壌のC/Nバランス操作の可能性について議論する.

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