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一般講演 P2-023

温帯湿原(深泥池)における浮島の浮沈と植物種が地下水質に与える影響

*嶋村鉄也(京大院・AA研),伊藤雅之,尾坂兼一(京大院・農),大手信人(東大院・農),竹門康弘(京大・防災研)

湿原における地表面近くの地下水質は、植物の分布に影響を与える事が知られている。一方で、植物が地下水質に与える影響は、殆ど明らかにされていない。そこで、植物種が水質形成機構に与える影響を明らかにするために、深泥池の浮島において優占する植物種毎の泥炭表層域の地下水質を調べた。

深泥池は京都市北区にある9ha程度の池であり、内部には泥炭質の浮島がある。この浮島は夏に浮上し、冬に沈降する。ここでは、オオミズゴケ(凸状の地形を形成する)、ハリミズゴケ(平坦な部分に優占する)や維管束植物であるミツガシワ・カンガレイがパッチ状に優占している。

地下水中の溶存酸素濃度は、ハリミズゴケ域で高く、オオミズゴケ域で低くなっていた。この違いは特に冬期に顕著であった。維管束植物域の溶存酸素濃度は冬期に低く、夏期には上記2種のミズゴケ域の中間的な値を示していた。硝酸イオンは殆ど全域で検出されなかった。硫酸イオンやアンモニウムの濃度から、オオミズゴケ域>ハリミズゴケ域>維管束植物域の順で還元的な状態であることが明らかになった。

オオミズゴケは凸地形の上部で優占するため、光合成は大気中でおこなわれる。ハリミズゴケは平坦な場所で優占するため、浮島が沈む冬場や、降雨直後は水面下で光合成を行う。この光合成による酸素供給が、酸化的な水質の形成に貢献していたと考えられる。葉が大気中に存在する維管束植物は、大気と地下部のガス交換経路として機能するが、これらの地上部は冬場に枯死してしまうために、酸素の供給が減少し、冬場に還元的になったと考えられた。これらの結果から、植物種の形態やフェノロジーが、泥炭湿原の地下水質に強い影響を与えているということが明らかになった。

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