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一般講演 P2-025
湿原は、温室効果ガスであるメタン(CH4)の重要な放出源と考えられており、寒帯・亜寒帯の泥炭湿地などで多くの研究がなされてきた。ただし、これまでの研究は温度や水分条件の影響に着目したものが多く、湿原上の植生の違いがCH4生成機構や生成量などに及ぼす影響については未解明の課題である。本研究では次の仮説を立て、観測を行った。1)光合成が水中で卓越するハリミズゴケ域と地上で卓越するオオミズゴケ域とでは、地下水・地表水中のDO濃度や酸化還元条件が異なる結果、CH4,動態が異なる、2)維管束植物優占域では地上部と地下部のガス交換(CH4, CO2, O2など)が促進される結果、コケ類優占域とはガス動態が異なる。観測は京都市に位置する深泥池浮島湿原内の植生の異なる多地点において行い、地下水中の溶存CH4・CO2濃度及びそれらの炭素安定同位体比と各種水質項目(pH, ECなど)を測定した。地下水中の溶存CH4・CO2の量やその炭素安定同位体比は植生類型間で大きく異なった。ハリミズゴケ域では、オオミズゴケ域に比べ、地下水中のDOが多く、溶存CH4が少なかった。このことはハリミズゴケ域においては、光合成によって水中のDO濃度が高い条件下でCH4生成が抑制されていることを示唆した。また、各地点の地下水中の溶存CH4濃度とCO2の炭素安定同位体比の間には強い正の相関が見られた。これは、地下部でCO2からCH4が活発に生成される結果、CO2の炭素安定同位体の濃縮が生じていることを示していた。さらに各地点の地下水中溶存CH4の炭素安定同位体比は植生間で大きくばらつき、地表面から放出されるCH4の炭素安定同位体比についても植生類型間でばらつきを有する可能性を示した。